皆さん、こんにちは。動画屋の木村です。
今回は、「キングファイル」や「テプラ」でおなじみの株式会社キングジム様に、YouTubeチャンネルのリニューアルと動画活用についてお話を伺いました。お話して下さったのは、広報・IR部 PR課 課長の井上さんです。2021年から取り組んできた公式YouTubeの運用を、なぜいま“次のフェーズ”へ進めたのか。リニューアルの狙いと手応え、そして動画屋と伴走して感じたことを、企画の舞台裏まで含めてじっくり語っていただきました。
国内トップシェア※の文具メーカーから、ライフスタイル領域へ
木村:まずはキングジム様の事業内容と、井上さんの業務内容をご説明頂けますか?
井上さん:キングジムは、文具事務用品や生活雑貨を企画・製造・販売しているメーカーです。代表的な製品は、厚型パイプ式ファイルの「キングファイル」とラベルライターの「テプラ」で、どちらも国内トップシェアブランド※として長くご愛用いただいています。近年はグループ会社が増え、文具だけでなくキッチン家電や家具など、生活に寄り添う雑貨領域にも事業を広げています。
私は広報・IR部のPR課に所属しており、主に自社製品のPRを担当しています。メディアとのコミュニケーションに加え、製品ホームページの制作、SNS運用、宣伝広告などの業務を行っています。
※自社調べ

着任当初の印象は「動画初心者に心強い伴走」
木村:2023年6月当時、井上さんは広報室 室長として着任されました。当時のYouTubeチャンネルや、動画屋との取り組みについて最初に感じた印象はどのようなものでしたか?
井上さん:キングジムがYouTubeを本格的に活用し始めたのは2021年からで、企業としては比較的早いタイミングで公式チャンネルに取り組んだと伺っています。当時は動画という媒体が伸び始めた時期でもあり、キングジムとしても動画による情報発信力を強化したいという狙いがありました。商品ジャンルも幅広いので、どんなジャンルにも対応していくことも目標の一つでした。
私が着任した頃の状況としては、一定の質を保ちながら、商品の特長をきちんと伝える動画を継続的に公開することを重視していた印象です。動画屋さんには撮影から編集、さらに公開後のフィードバックまで支援いただいて、走り始めの“動画初心者”だった私たちにとって、とても心強い存在でした。
2021年〜2023年の3年間でコンテンツ数も十分に増え、ノウハウも蓄積されていた一方で、動画コンテンツの中心は「商品の紹介」という印象もありました。
「一方通行の情報発信」から抜け出したかった
木村:リニューアルを行うにあたり、どのような課題や目的があったのでしょうか?
井上さん:チャンネル立ち上げ当初の目標だった「コンスタントに一定の質で、商品の特長をきちんと紹介する」という第1段階については、手応えと実績を感じていました。ただ、その一方でふと「企業からお客様への一方通行な情報発信になっていないか?」と思うことが増えてきたんです。
企業として新製品の情報をきちんと伝えるのはもちろん大事なのですが、どうしても 「こちらのタイミングで発信する情報」 が中心になりがちです。お客様が「欲しい」と思うタイミングで、欲しい情報を届けられているかというと、まだ不足があると感じていました。
そこでSNS全体でお客様アンケートを実施したところ、新製品情報だけでなく、開発背景や便利な使い方も知りたいという声が多く届いたんです。「動画だからこそ分かりやすく伝えられる価値」はもちろんある。でも、それだけに留まらず、キングジムのチャンネルだからこそ出せる情報って何だろう?と考えたことが、リニューアルの大きなきっかけでした。
第2段階の目標として、更新を楽しみにしてくれるファンを増やすことを明確に掲げ、リニューアルを進めることになりました。

株式会社キングジム 広報・IR部 PR課 課長の井上さん
「見られている」と「好きになっている」は違う
木村:最初のミーティングで「ファン化を重視したい」と仰って頂きました。弊社もファン化が結果的に視聴回数へ繋がると考えています。
井上さん:動画を作って公開するからには、もちろん見てもらいたい。再生回数はKPIとして追っていました。ただ、会社の中期経営計画も切り替わり、SNSなどお客様とのコミュニケーションをより強化していく流れがありました。YouTubeでも広報として貢献できることは何だろう?と考えていた時に、動画屋さんから言われたのが「見てもらっていることと、見て“いい”と思っていることは違う」という言葉でした。
本当にその通りだなと思って。見て良いと思ってもらえなければ、また見たい・登録したいという“ファン”にはなってもらえない。だから、正確な情報を伝えることは続けつつ、作り手としての熱量や想いまで伝えられるチャンネルにしたいという気持ちが強まりました。
リニューアル後、反応は「数字にも空気にも」表れた
木村:リニューアル後、視聴者層の変化や社内からの反響など、どんな成果や効果を感じられましたか?
井上さん:今回のリニューアルでは、ただ“見る人”ではなく、見て良いと思ってくれる“ファン”へ変えていく、見るたびにファン度を高めていく、というコンセプトがありました。そのため運用KPIも、再生回数中心からチャンネル登録者数・高評価数に切り替えています。
リニューアルしてまだ1〜2ヶ月ですが、明らかにコメントが増えました。登録者の伸び方も1本あたりで換算しても数字に出ていて、素直に嬉しいですね。定性的なお声はこれからさらに拾っていきたいので、運用を続けた上で、あらためてアンケートも取ってみたいと思っています。
社内にも波及。「キングジム全体で一緒に作るチャンネル」へ
井上さん:今回、リニューアルの目的や新しいコンセプトを社内報で共有しました。なぜなら、これからは社員の使い方やおすすめ、作り手の想いが伝わるコンテンツを増やしたいという狙いがあり、それには広報だけで完結せず、開発や営業、バックオフィスなど多様な職種の協力が必要になるからです。
突然「YouTubeに出てください」と言うと、どうしても抵抗感が出ますよね。だからこそ、なぜやるのか/どこを目指すのか/どんなコンテンツを増やしたいのかをきちんと説明し、コンテンツの整理図も添えて、「一緒にキングジムの魅力を発信していきましょう」という形で周知しました。
実際、新しいチャレンジとして座談会形式など社員の思いや熱量が伝わる内容は「見ていて楽しい」という声も出てきて、外向けだけでなくインナーにも良い効果があると感じています。
社内の人が自社商品の魅力を再発見できることで、モチベーションや会社への愛着にもつながる。これはやってみて意外で、嬉しい効果でした。
市場トレンド×チャンネル分析が、方向性の確信になった
木村:コンセプト作りや企画段階で、印象に残っているやりとりやエピソードはありますか?
井上さん:動画市場のトレンドは専門外なので、日本・世界の傾向や他社チャンネル動向を、エビデンスと一緒に整理して提案していただけたのが本当にありがたかったです。3年間一緒に運用してきたからこそ、視聴者層や得意不得意、商品バリエーションまで熟知した上で「熱量や感情が伝わるコンテンツが、トレンドにもキングジムらしさにも合う」と具体的に示してもらえたことが、“この方向でいいんだ”と腹落ちできた決定打になりました。
特に、チャンネル分析のマトリックスを作っていただいたのが大きかったです。日々更新に追われていると、「今、誰に向けて何を作っているのか」全体を俯瞰しづらくなるんですよね。人気領域/不足領域/伸びそうなのに少ない領域が可視化されて、今後の企画のバランスを考える上でもすごく助かりました。
「真面目なバラエティ番組」という合言葉で、トンマナが決まった
木村:動画のトンマナやグラフィックを統一したことで、印象はどう変わりましたか?
井上さん:チャンネルっぽさを出したいという想いは当初からあったのですが、どの方向に振るかは悩みました。キングジムは文具事務用品のイメージから“硬め・安定感”という印象がある一方で、雑貨系文具の「HITOTOKI」ブランドやグループ会社によるキッチン家電・家具などの商品も扱っています。だから硬すぎるデザインだと、全体の企業イメージと違ってしまう。
そんな議論の中で、動画屋さんから「真面目なバラエティ番組」というコンセプトを提案いただいた時、会議の参加者全員が「それだ!」となったのが印象的でした。真面目すぎない、でもポップすぎない。その“ちょうどいい”加減を言語化できたことが大きかったと思います。
また、グラフィックが統一されたことでSNS告知のフォーマットも整いましたし、社内編集の迷いが減ったのも嬉しい効果でした。“基本型がある”だけで運用のしやすさが変わるんですよね。
制作だけじゃない。「運用の安心感」が一番の価値
木村:分析や改善提案を含めた運用面で、特に役立っている点は何でしょうか?
井上さん:市場や他社動向の整理を、数字の根拠つきで提示していただけたのは安心感がありました。毎月の定例で動画ごとの振り返りを数字で共有してもらえること、今後は四半期ごとの企画会議で中長期の方針を一緒にすり合わせられることも、運用面では心強いです。
日々のちょっとした相談にすぐ答えてもらえる距離感や、担当が変わった時の編集勉強会までサポートいただける点も含めて、“伴走してくれるパートナー”がいる安心感が一番大きいですね。
4年間一緒にやってきたからこその信頼
木村:長期的に取り組む中で、任せて安心だと感じる点は?
井上さん:2021年から丸4年。長く一緒に取り組んできたことで、商品理解が前提にあり、いきなり“動画の話”から始められるのが大きいです。チャンネルの特長や季節の変動、視聴者の傾向も把握した上で具体的な提案をいただけるので安心感があります。“ふんわりしたイメージはあるけど手段が分からない”時に、私たちのレベルに合わせてアドバイスしていただけるのもありがたいです。
リニューアル前後の変化、効果の分析まで含めて、長期だからこそ一緒に次の打ち手を考えられる関係を続けていきたいと思っています。
YouTubeを「キングジムの面白さの入り口」にしたい
木村:今後、YouTubeチャンネルを通じて実現したいことはありますか?
井上さん:商品単体のファンだけでなく、「キングジムって面白いね」と思ってもらう入り口になればいいなと思っています。YouTube自体も検索・学びの場として変化しているので、媒体の特長とお客様が求める情報を掴みつつ、キングジムらしいコンテンツを提供し続けたい。
“私たちのタイミングで一方的に情報を出す場”ではなく、求められている情報を良いタイミングで提供し、双方向のコミュニケーションが生まれる場にしていきたいです。
スペックだけじゃない、「想いで選ばれる」時代へ
木村:AIなどで情報取得方法が変わる中、今後は感情や気持ちによる購買が加速するのではと感じています。
井上さん:ものづくりの立場としても、機能・性能を重視する開発はもちろん大切ですが、それだけではない“買い方”も今後増えると思っています。「私はこの会社が作っている、これがいい」そういう感情で選ばれる買い方ですね。
広報としては、商品のスペックだけでなく、どこに魅力を見出し、どう伝えるかを常に考えています。そのツールとして、動画でしかできないことはたくさんある。商品ページでは伝えきれない作り手の想いや、暮らしの背景。短い時間で端的に伝えられるのは、動画ならではだと思っています。
俯瞰して強みを見つけてくれる、頼れる外部パートナー
木村:動画屋に今後期待することや、他社にもおすすめできるポイントは?
井上さん:社内だけで制作していると、煮詰まったり「自分たちの強みは何だったっけ?」と分からなくなることがあります。でも動画屋さんは俯瞰して見てくださるからこそ、自分たちでは気づけない強みや特長を言語化して教えてくれる。それがすごくありがたいです。
制作面も運用面もプロフェッショナルに支えていただけて、“ズレ”に気づいて軌道修正しながら、同じゴールを共有して進められるパートナーがいることは本当に大きい。今後も一緒にチャンネルを育てていけたらと思っています。
キングジム様のYouTube運用は、「製品の正確な紹介」という第1フェーズを土台に、“ファンと双方向につながるチャンネル”へと確実に歩みを進めています。動画屋としても、単なる制作に留まらず、分析・企画・運用の伴走まで含めてご一緒できることをとても嬉しく思います。井上さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!
